東京高等裁判所 昭和36年(行ウ)1号 決定 1961年7月31日
申立人 国
被申立人 中央労働委員会
主文
東京地方裁判所が同庁昭和三十一年(行モ)第六号緊急命令申立事件につき同年五月十六日附でなした緊急命令中金員支払を命じた部分を次のとおり変更する。
申立人は、昭和三十六年八月一日から当庁昭和三十三年(ネ)第四二八号不当労働行為救済命令取消請求控訴事件の判決確定に至るまで佐藤武男に対し毎月金二万円ずつ、佐貫勇に対し毎月金一万七千円ずつ、西山陽に対し毎月金一万五千円ずつを支払え。
東京地方裁判所が同庁昭和三十一年(行モ)第一三号緊急命令申立事件につき同年八月二十日附でなした緊急命令(ただし、昭和三十三年五月十二日附決定により一部変更された)中金員支払を命じた部分を次のとおり変更する。
申立人は、昭和三十六年八月一日から当庁昭和三十三年(ネ)第四二八号不当労働行為救済命令取消請求控訴事件の判決確定に至るまで中村清哉に対し毎月金一万五千円ずつを支払え。
理由
本件申立理由は、要するに、本件各緊急命令中金員支払を命じた部分は、被申立人が中労委昭和三十年不再第一号不当労働行為再審査申立事件について昭和三十年十一月三十日附でなした救済命令のうち佐藤武男、佐貫勇、西山陽及び中村清哉が解雇から原職に復帰するに至るまでの間に受くべかりし諸給与相当額を同人らに支払うべきことを命じた部分の履行に関してなされたものであるところ、佐藤ら四名は解雇中に他の職場で働いて収入を得ているのにかかわらず右救済命令が解雇から復職までの間に受くべかりし諸給与の全額の遡及支払を命じている点は違法として取り消されるべきである(昭和三十六年一月三十日言渡当庁昭和三十三年(ネ)第四二八号事件判決参照。)から、救済命令中の右の部分の履行に関する本件各緊急命令中金員支払を命じた部分も不当不要のものとしてその取消を求めるというのである。
そこで検討するに、労働委員会が救済命令として解雇から復職までの間に労働者が受くべかりし給与の支払を命ずるに当つては、当該労働者が解雇中他の職場で働いて得た賃金(それが副業的のものである場合を除く。以下同じ。)を控除した残額に限りその支払を命ずべきところ、緊急命令の性質が救済命令を受けた労働者の地位を一応保全するための暫定的処分である以上、格別の必要がないのにかかわらず緊急命令において解雇中に労働者が他の職場で働いて得た賃金を控除した残額を上回る給与の支払を命ずることは、救済命令で救済されるところをこえて労働者の地位保全を講ずる結果となり、緊急命令の性質上許されないところである。
これを本件についてみるに、東京地方裁判所昭和三十一年(行モ)第六号事件及び同第一三号事件の各記録に徴すると佐藤ら四名の解雇当時の給与月額はそれぞれ別表(一)欄記載のとおりであることを認めることができ、一方申立人提出の調達庁労務部長から法務省訟務局長あての昭和三十六年五月二十九日附調労発第三九〇号(CLX)書面及び東京都総務局長松本留義から調達庁労務部長あての同年六月七日附総渉労発第一八〇号書面によると佐藤ら四名は解雇を受けた在日米軍調達局東京支局以外の職場において就職中であり現在それぞれ別表(二)欄記載の賃金月収を得ている事実を認めることができる。なお、本件各緊急命令に掲げられている右四名への支給月額は別表(三)欄記載のとおりである。
以上によれば、右四名中佐藤を除くその余の三名については現在の他の職場での賃金収入額だけでも解雇当時の給与額を上回ることは計数上明らかでありそれゆえ給与の面においてはもはや救済の必要がなくしたがつてこれに関する緊急命令の必要性も存しないもののようである。しかしながら、解雇後における昇給、ベースアツプその他の給与事情の変更を考慮すると、右四名が現在原職に復帰したとするならば受けるであろうところの給与額はこれを具体的に確定することは困難であるにしても、解雇当時の給与額をかなり上回ることは明らかである。一方、東京地方裁判所昭和三十一年(行モ)第六号事件記録に編綴されている佐藤武男作成の申請理由書(右記録一四丁)、佐貫勇作成の要請書(右記録一五丁)及び西山陽作成の救済申請書(右記録一七丁)並びに同庁同年(行モ)第一三号事件記録に編綴されている中村清哉作成の陳述書(右記録二六丁)と前記申立人提出の書面二通とを総合すると、佐藤ら四名は現在必ずしも安定した職場を得ているものでないことを認めることができる。
以上のとおりであるから、佐藤ら四名が他の職場で賃金収入を得ていることを参酌しても、不当労働行為に対する救済として解雇中に他の職場で得た賃金収入を控除した残額の給与の支払を受けうべき佐藤ら四名の地位保全のための緊急命令の必要性はなお存するものと認められ、支払を命ずべき金額としては、昭和三十六年八月一日以降主文第二項及び第四項に掲げる限度をもつて相当とする。
よつて、本件各緊急命令中金員支払を命じた部分を将来に向つて変更することとし、主文のとおり決定する。
(裁判官 川喜多正時 小沢文雄 賀集唱)
(別表)
氏名
(一)解雇当時の給与月額
(二)他の職場での現在の賃金月収額
(三)緊急命令所定の支給月額
佐藤武男
(昭二八、六、二七)三四、六四七円
三〇、七四〇円
二六、三三〇円
佐貫勇
(〃)三一、六八七円
四三、五〇〇円
二五、九二三円
西山陽
(昭二八、七、二〇)二八、八九三円
四九、五〇〇円
二五、六〇八円
中村清哉
(昭二八、六、二九)二七、七六六円
三三、六六九円
二五、〇〇〇円